令和6年度の報酬改定で、障害福祉サービスの処遇改善加算が大きく変わります。「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」が一本化され、新たな「処遇改善加算(福祉・介護職員等処遇改善加算)」になるのです。
新加算の特徴は大きく3つ。まず複雑だった加算体系がシンプルになり、事務作業の負担が減ること。そして、これまで対象外だった就労定着支援などのサービスが新たに加算の対象に加わること。さらに、2024年度は「年度内の対応の誓約」で算定できる経過措置が設けられていることです。
とはいえ、制度設計が変わるだけに、移行期の取得手続きには注意が必要。加算額の配分ルールや算定要件にも変更があるため、しっかりとおさえておきましょう。

新処遇改善加算の概要

新処遇改善加算には、本則のⅠ~Ⅳと経過措置のⅤ⑴~⒁があります。本則は旧加算の要件や加算率を組み合わせた形で設計され、経過措置は2024年5月時点で旧加算を算定している事業所向けの区分です。
加算率は本則の方が高いため、できるだけ本則を目指したいところ。
ただ無理のない範囲で対応することが大切だと思います。


新加算の区分と概要
処遇改善加算Ⅰ:月額賃金改善+キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅴ全て)+職場環境等要件
処遇改善加算Ⅱ:月額賃金改善+キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅳ)+職場環境等要件
処遇改善加算Ⅲ:月額賃金改善+キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅲ)
処遇改善加算Ⅳ:キャリアパス要件(Ⅰ~Ⅱ)
処遇改善加算Ⅴ:令和5年度の旧加算の区分に応じた要件
処遇改善加算Ⅴは、令和5年度に取得していた旧加算の区分
(処遇改善加算、特定処遇改善加算、ベースアップ等支援加算)に応じて、⑴~⒁に分かれています。


処遇改善の配分ルール
新加算では職種ごとの配分ルールがなくなり、柔軟な配分が可能になりました。
基本は福祉・介護職員への配分ですが、特に経験・技能のある人材に重点的に配分しつつ、
他の職種にも配分できるのです。

ただし同一法人内の一部の事業所だけに偏って配分するなどは不可です。
実際の配分にあたっては、職務内容などに見合った適切な按分を心がけましょう。

また、新加算では前年度からの加算額の増額分以上の賃金改善が必要とされています。
ベースアップ等支援加算の対象だった事業所は、
新加算でもベースアップ相当分の月額賃金改善が求められる点にも注意が必要です。

処遇改善加算の取得手続き

処遇改善加算の取得手続きは、「処遇改善計画書」の作成と提出、半年~1年後の「実績報告書」の提出が必要です。
2024年度は4月15日までに計画書を提出しますが、6月分から加算率が変わる新加算については、6月15日まで変更の届出が可能です。あわせて加算率の変更に伴う体制届の提出も必要なので、自治体の締切を確認しておきましょう。
計画書の作成にあたっては、賃金改善見込額と前年度からの増加見込額を職種ごとに記載します。配分ルールが変わったとはいえ、適切な配分を行うためにも、しっかりとシミュレーションしておくことが大切です。

4つの算定要件に注意
新加算の算定要件には、以下の4つがあります。

1. 月額賃金改善要件
一定の賃上げをするための要件で、処遇改善加算Ⅰ~Ⅲで必要です。具体的な金額は、新加算Ⅳの加算額の1/2以上を目安に、
計画書に記載します。2024年度は経過措置として記載は任意ですが、記載する場合は確実に履行する必要があります。


2. キャリアパス要件
キャリアアップの仕組み作りに関する要件で、主に以下の取り組みが求められます。
キャリアパス要件Ⅰ:職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備
キャリアパス要件Ⅱ:資質向上のための計画を策定し、研修の実施や資格取得支援を行うこと
キャリアパス要件Ⅲ:経験・資格・一定の基準に基づく昇給の仕組みの整備
キャリアパス要件Ⅳ:経験・技能のある障害福祉人材に一定の賃金改善を行うこと
キャリアパス要件Ⅴ:福祉専門職員配置等加算または特定事業所加算の届出

3. 職場環境等要件
ハラスメント防止対策や業務省力化など、職員が働きやすい環境整備に関する要件です。
処遇改善加算Ⅰ・Ⅱで必要となり、令和5年度の職場環境等要件と同様、7つの区分から取り組みを選択します。


4. 見える化要件
インターネットの活用等により、取組内容の公表を求める要件です。
具体的には、都道府県が開示する介護サービス情報公表システム等を活用しての公表を想定しています。
見える化要件は処遇改善加算Ⅰ・Ⅱで必要です。


2024年度の経過措置を活用しよう
上記の月額賃金改善要件とキャリアパス要件については、2024年度の経過措置として、年度内に対応することを誓約すれば算定が可能です。計画的な準備が難しい事業所も、この経過措置を活用して加算の取得を目指すのも一案でしょう。
ただし、2025年度以降は経過措置がなくなるため、できるだけ早めに要件への対応を進めておきたいものです。
 

新処遇改善加算で職員の処遇改善を

障害福祉サービスの報酬改定では毎回のように処遇改善加算が取り上げられ、少しずつ制度設計が変わってきました。
支援の現場を支える福祉・介護職員の処遇改善は待ったなしの課題だからです。

事業所としては加算を取得して確実に賃金の引き上げにつなげていくことが求められます。
新加算は単価設定も高く、やりがいのある職場作りを後押しするチャンスといえるでしょう。
職員の納得を得ながら、適切な処遇改善を実現していきたいものです

まとめ

令和6年度から始まる新処遇改善加算は、これまでの加算体系を一本化したシンプルな設計になっています。
一方で、配分ルールの柔軟化や算定要件の見直しなど、しっかり理解しておくべき変更点もあります。


特に、処遇改善加算の取得を検討している事業所は、以下の点に注意しましょう。
新設された処遇改善加算Ⅰ~Ⅳと、経過措置としての処遇改善加算Ⅴの違いを理解する。
月額賃金改善要件やキャリアパス要件など、算定要件への対応を計画的に進める。
2024年度は経過措置が設けられているため、うまく活用して加算の取得を目指す。
加算による収入増を職員の賃金改善に確実につなげ、働きやすい職場環境作りに取り組む。

障害福祉サービスの現場は、今も人材不足に悩まされています。事業所の健全な運営のためにも、
処遇改善加算を活用した職員の待遇改善は欠かせません。


加算の取得を検討している事業所は、ぜひ今回の記事を参考に、準備を進めてみてください。
申請書類の作成などで不明点があれば、ウェルフェア社会保険労務士法人への相談をお願いします。